WindowsVistaになってちょっと自治体混乱?「葛」問題。 |
2007年1月30日より、正式にWindowsVistaが発売され、同時に搭載パソコンも各社より続々と発売されました。 WindowsVistaから「JIS X 0213:2004」という日本語の文字コードが採用されています。 扱う文字数が追加されたと同時に、一部の表外漢字の字体が「拡張新字体」型から「康熙字典体」型に変更されています。 どんな漢字が変更になったかは「「JIS漢字コード表の改正について」の付表 <PDF 335KB>」をご覧ください。 この中で「葛」という字があります。 みなさんのパソコンではどういう形に見えますか? ポイントは「勹」の中身です。 「」か「」か・・・。 XPまでは前者、Vistaからは後者が採用されています。 東京都葛飾区は「」にこだわり、これを正式な区の名称としました。 ただ、「」を用いた「」の字体は、唐代の楷書からすでに書かれていた伝統ある楷書体です。欧陽詢の九成宮醴泉銘にも「」のように書かれています(「」の一画目は左から右へ。二画目は上にはねず止めている。) 実際は混乱を避けるために、両方の字体で手続きなどができるようになってます。 葛飾区のHPを参照(「葛」の字の不思議)。 しかし、平成の大合併で誕生した奈良県の葛城市では「」を用いた「」を正式に採用しました。 先述したとおり、Vistaになって「JIS X 0213:2004」が採用されてから、今後は「」が正式となり、「」が外字扱いになってしまうことになるわけです。 数年後はパソコン上から「」が消えることになり、市名としては扱いにくくなるでしょう。 先述の通り、初唐標準字体は「」で「」の方が主流でして、日本でも奈良時代から明治時代まで、ずっとこの字体の方がほとんどです。 奈良のような伝統文化を大切にする地域で、知ってか知らずか、この伝統的な楷書の字体を採用したことになりますね。 葛城市のHP参照。 この問題の根本に、印刷文字か手書き文字かの違いもあります。 中国宋代で印刷は確立されますが、印刷されるものは特別な場合で正式で正統な文章でしたので、手書きの通用字体(初唐標準字体)ではなく、中唐で確立された唐代正字(開成石経標準字体)が採用されました。 その印刷物が中世ごろ日本にも伝わったので、印刷物=唐代正字という関係が成り立ち、唐代正字が清代の『康煕字典』で大成すると、その関係は当用漢字制定まで不動のものとなります。 現在、ワープロやインターネットの普及により、特別でも何でもなく一般的なものになったのですが、唐代正字(康煕字典体)が再び盛り返してきたことになります。 ただ、日本の常用漢字は、初唐標準字体などの略字を多く採用しているため、新たな印刷文字(JIS X 0213:2004)との齟齬が出ているのが現状です。 そして、2010年より新常用漢字が制定され、「葛」はめでたく常用漢字の仲間入りをしました。 字体はどちらが採用されたのかというと・・・両方です。つまり、どちらを書いてもかまわないとのことです。 JIS規定に配慮してか、「」の方を常用漢字表に入れていますが、付表には「」も許容されるとしています。 ただ、すでに常用漢字に入っていた「渇」「掲」「褐」に合わせて、「」の方を表に採用するべきだったと思います。 では「」のこの字形はどういう成り立ちでできたのでしょうか? ここで例の白川静先生の「字通」をめくってみましょう! 「」は形声の文字で、草花を表すくさかんむりと「曷(かつ)」という音から成ります。 このとき「曷」には意味がありません。 「曷」は「曰」と「匃(かい)」から成ります。 「匃(匄)」は「勹」と「亡」から成り、両方とも屈んだ白骨死体の形。これの霊に祈り求める意を持つ字です。 「匃」の「人」の部分は「亡」の「亠」の部分と同じだということがわかりますね。 「匃」は古い字形で、後、誤った形の「丐」として一般化しています。 「曰」は祝詞を入れた器で、「曷」は死体の霊に祝詞を添えて災いがやむように神に祈り求めることを原義とする字です。 これを部分に持つ「謁」「喝」「遏」「歇」などはその儀礼に関連した文字だそうです。 結構おどろおどろしい成り方をした字なんですね。 |