【爾】 14画 (10)  準1級

異体字【尓】


[音]
[訓] なんじ

《意味》

  1. なんじ。近くにいる相手を指す第二人称の言葉。「爾汝」
  2. しかり。しかる。それ。その。近くにある事物や前に述べた事物、事柄を示す言葉。それ。そのような。「然」
  3. しかり。そうだと肯定する言葉。
  4. 形容詞につく助詞。もと、「そのような」の意を含んでいた。「徒爾」「卓爾」「莞爾」
  5. のみ。限定・断定の助字。「耳」

【爾後】じご

こののち。そののち。それ以来。以後。
副詞的にも使う。
「爾後十年に及ぶつきあいだ」
爾今(じこん)

【爾今】じこん 

今から。この後。今後。
「爾今以後、口も聞かない」
「自今」とも書く。

【爾じじょ

相手を遠慮なく呼び捨てにすること。
「爾汝の間柄」

【爾の交わり】じじょのまじわり

互いに相手を呼び捨てにするほど仲のよいつきあい。

【爾余】じよ

このもの以外。そのほか。
「爾余の問題は先送りとする」
「自余」とも書く。

【爾来】じらい

それ以来。それ以後。その後。
「爾余の問題は先送りとする」

【爾】なんじ

おまえ。そち。目下の人や親しい人を呼ぶ語。
「爾姦淫するなかれ」
」「」とも書く。

【云爾】うんじ

文章の末尾に書かれ、上文の内容を強調指示する語。「これにほかならぬ」の意。
漢文で「しかり」「しかいう」と訓ぜられる。

【温文爾雅】おんぶんじが

態度や表情が穏やかで、言動が正しく美しいこと。
「温文」は心が穏やかで、態度や表情が穏和なこと。
「爾雅」は文章、言語、風俗などのかどが取れて美しいこと。
書き下し文は「温文(おんぶん)()(ちか)し」
「爾雅温文」「温文儒雅」ともいう。

爾】かんじ

にっこりと笑うようす。特に男に用いられる。
「莞爾として笑う」
女の場合は「嫣然(えんぜん)(艶然)」

【自然法爾】じねんほうに

親鸞が絶対他力の信仰を説明した語。阿弥陀仏に帰依し念仏を唱えようとする心が、人々の主体性からではなく、阿弥陀仏の誓願の力によって生じてくるということ。

【蠢爾】しゅんじ

  1. 虫のうごめくさま。蠢然。
  2. 取るに足らぬものがさわぐさま。
    「不満分子が蠢爾する」
蠢動(しゅんどう)

【卒爾・率爾】そつじ

言動が突然なこと。にわかなこと。また、軽率なこと。
「卒爾ながらお伺いします」
「卒然・率然」

【卓爾】たくじ

高くぬきんでて、ひときわすぐれているさま。

【徒爾】とじ

むだなこと。むだ。
「徒爾に終わる」
徒事(とじ)

爾】ムーア

トーマス・ムーア。1779年~1852年。アイルランドの詩人。アイルランドの心情をうたった抒情詩が知られる。「名残のばら」(邦題「庭の千草」)を含む「アイルランド歌曲集」など。

【聊爾】りょうじ

  1. 軽はずみなこと。軽々しくいいかげんであること。
  2. ぶしつけなこと。失礼。
    「聊爾ながらおたずねします」

《字源》

声符は「爾(じ)
金文の字形によると、「爾」は人の正面形の上半部と、その胸部に「㸚(り)形の文様を加えた形。
「㸚」は両乳を中心として加えるもので、などは女子の文身(ぶんしん)(いれずみ)を示す。
「爽」の上半身の形が「爾」にあたる。
文身の美しさから「うつくしい・あざやか」の意を持つ。
「なんじ・その」などのように用いるのは仮借。

《字体》

『説文解字』ではの2つは別字扱い。それぞれ、「爾」「尒」
その後の字書では、「尒」「爾」の古文とした異体字(書体の異なる同字)の扱いとなる。
実際は、)」)」の下部の「冂」「㸚」を省略したものと思われる。
「尒」の草体化によるもので、書法上の差。
南北朝・隋・初唐頃まで「尓・尒」が主流で、中唐の『開成石経』以降は「爾」が正字となる。
「爾」を含む「禰・祢」「邇」「彌・弥」「璽」なども、それぞれ」「などと多く書かれてきた。
つまり、は略字でも俗字でもなく、「爾」と同字である。
「爾」を手書きの楷書風に書く場合はと書くのがよい。

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