同じ漢字でも微妙に違うんですけど、どれが正しいの? 正字体と通用字体 |
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漢字検定準1級や1級を勉強しようとして、2級までとは違う新たな問題があります。 それは字体の問題。 2級までの常用漢字は、国が決めた字体に統一されているため、同じ字種の中に大きな違いはありません。ところが1級や準1級に新たに配当される漢字は表外文字のため、決まった字体はなく、複数の字体が存在します。 例えば準1級配当の「剥」には「」と「」の二つが並んでいて、漢検では「」を「許容字体(この字体でもいいですよ~)」としています。 漢字の字体には2つの系統があります。 正字体と通用字体です。 漢字は小篆(篆書体)→隷書体→楷書体というふうに手書きに適した形で進化しました。 その過程で、様々な異体字が生まれました。これが通用字体です。 これらは、東晋の王羲之を経て、初唐には欧陽詢、虞世南、褚遂良により楷書は完成され、この頃に多く書かれた字体を初唐標準字体と呼びます。 唐代に入ってから、たくさん生じた異体字を整理しなきゃいかんということで、『説文解字』の小篆をそのまま楷書体化した正字が生まれます。 それら字体は、顔元孫の『干禄字書』、張参の『五経文字』、唐玄度の『九経字様』そして『開成石経』に採用され、開成石経標準字体と呼ばれます。 正字とは、正統な(正規の)文字のことです。使用実績があるかどうかはまた別で、使用実績のないまま生み出された正字も多いです。つまり、「正字=正しい字」というわけではありません。その正字の流れをくむのが『康煕字典』です。 →漢字夜話「新常用漢字に採用された「鬱」を覚えるのは大変?」も参照 わかりやすく分類すると
ここでは「」が正字体(開成石経標準字体)で、「」が通用字体(初唐標準字体)(漢検ではこちらを許容字体としています)です。 中国では、唐代で正字体がまとめられるまで正字体は廃れ、通用字体でばかり書かれていました。正字体が生まれてからは、正式で特別な場合は正字体、通常の文書では通用字体というふうに使い分けられるようになりました。 しかし、北宋時代に入り、木版印刷が盛んになって正字体が印刷にたくさん用いられるようになります。正式で特別な場合に印刷が用いられるようになったからです。 手書きの楷書体のように活字を彫るのは難しいので、縦横がきっちりした印刷用の自体が生まれます。それが宋朝体や明朝体です。 南宋の時代には、印刷用の字体で書かれた正字体の書物がたくさん印刷されるようになり、それが日本にも入ってくるようになりました。 日本では、正字の書物を読んで通用体で書く、ということが鎌倉時代からしばらく続きますが、江戸時代には徐々に正字体が一般化してきます。 明治時代になると、学校で教える字体も正字体になります。中国から輸入した印刷物(「康煕字典」など)に載っている正式・正統な字という認識に依るものと思われます。しかし、日常では通用体が広く使われていました。なぜなら、正字体は運筆の面でも書きにくいものが多いからです。通用字体は手書きに特化した字体です。 現代に入り、逆の動きが働きます。漢字制限の考えもあり、通用字体を正式にするようになります。それが当用漢字や常用漢字の誕生です。 正字体、通用体、どちらが正しいということはありません。好きな方を使ってもらってかまいません。 漢検においては、許容字体の範囲で通用体を使用してもかまいませんし、マニアックに正字体を使用してもかまいません。漢字は結構自由なのです。 《追記》 2010年より新常用漢字が制定され、「剥」「葛」はめでたく常用漢字の仲間入りをしました。 字体はどちらが採用されたのかというと・・・両方です。つまり、どちらを書いてもかまわないとのことです。 |